詩
読んでいただきありがとうございます。
救ってくれるなら道しるべを信じるから
私は迷子になった人が訪れる場所に
道しるべを立てる仕事をしています
私はあなたをAさんと呼びます
「すいません、迷子になってしまって、もうどうしたらいいか」
〈Aさん、大丈夫ですよ〉
その瞬間、Aさんだった人は
『迷子の、大丈夫な、Aさん』になった
Bさんも、Cさんも、Dさんも、迷子になって、大丈夫になった
Xさんは、私が見付ける前から迷子だった
「私は迷子でもいいんです。それではごきげんよう」
Xさんは涙を流していたので、私は混乱するばかりだった
Yさんが迷子になった場所は、私の地図には載っていなかった
「どうしてこのお仕事をしているんですか。尊敬します」
Yさんの持っていた地図は、私の手作りの地図とは違った
綺麗に印刷されていて、大きくて、私は狼狽するほかなかった
道しるべを立てる仕事をしていた姿は見る影もなく
迷い込むようにやってきたのはZさんだった
「私は迷子になりません。迷子の道しるべを、私に譲ってください」
私は久しぶりの同業者と言葉を交わす機会に胸を躍らせた
しかしZさんの要求を断ることには頑なだった
来る日も来る日も、迷子の道しるべをめぐる押し問答
時に迷子についての議論をし、時に旅に必要なものを教え合った
ぽっきり折れた心がくっつき始めた頃、Zさんは折れてくれた
「迷子の私を見付けてくれて、ありがとう」と泣いた
この仕事を選んで、ここに来て、
道しるべを立てた甲斐があったと安堵した
〈この道しるべは、あなたのために、あったのかもしれません〉
その瞬間から、私が立てたはずの道しるべが、どこにも見当たらない
事態を飲み込むのにまだ時間はかかりそうで、
間違った答えなのかもしれないけど、
まるで二人きりで迷子になることを選ぶようで、
仕事も自分も全部なくしてしまいそうで、不安でいっぱいだったけど
〈迷子の私を見付けてくれて、ありがとう〉と抱き合うことを選んだ
スポンサーサイト
神さまの子どもたち
孤児院には、神さまが産み出した子と、神さまが預かっている子があった
そこはまるで全ての子が帰る場所のような、神さまの世界だった
ともかく子は、二種類があったわけだが、その子ら自身も区別はつかなかった
やがて子どもたちは、神さまの世界を離れていく
神さまの視線の先の、東へ旅をした子は、視界を汚してモノクロの世界に浸っていた
神さまの指がさした、西へ旅をした子は、体を疲れ果たして鉛筆を手から滑り落とした
その二人が西へ彷徨い、東へ彷徨い、はるか遠い国で邂逅した時、
二人がどれだけ汚れていても、疲れ果てていても、
また再び神の子として生まれ変わる
そして、神の子として永遠に結ばれる
死ぬ方法
私は これを書きながら 震える夜を過ごしています
――もしかしたら あの日の笑顔が 最後かもしれない
私の当たり前が 揺らぎます
明日も自分が自分であること
玄関の戸を開ければ 見慣れた景色が広がっていること
見えない空気に何の心配もせず 呼吸をすること
私の覚えている人はみんな 私のことも覚えてくれていること
そんな当たり前の世界が当たり前だから
私は何も考えずに布団の中で目をつむるのです
あなたがいなくなったら
そんなことは考えもしません
当たり前が壊れそうなとき
私は怖くて眠れません
私の当たり前を 壊さないでください
私には あなたが必要です
そのままのあなたを見つめていたいのです
あなたの声を 一生聴き続けていたいのです
どうか 私の当たり前を 壊さないでください
私には あなたが必要です
私と一緒に 未来を過ごしてほしいんです
つぼみは知っている
今 二人を結ぶリボンがほどけようとしている
とても臆病になって こんな言葉を綴っている
この想いを君に届けて 固く結い直したい
君のことを どうやって見付けたんだろう
もう心臓のように感じているというのに
この鼓動が 永遠に続きますように――
君の迷子のなり方は
土砂降りの中 段ボールの中でなけなしの暖をとる
子犬のように見えるものだった
目が合った人を必要と感じて当たり前
そして僕の世界に辿り着いたのは不幸な偶然
僕はその二つを利用することを頑なに拒んだ
本当はとても抱きしめたかったのに
君の声の温もりは
呪いをかけられ 石のように姿を変えた
僕の鼓膜に染み渡るようだった
一生話を聴いていけて当たり前
そして君の笑顔を見つめ続けられるのも当然
君にどんな手続きを踏んで出会えたのかわからない
本当は一つのリボンを手繰り合っていたのかもしれない
君が僕を好きになって
すぐに両想いになった
やがて寒気のする風が雲をどけて
ぞっとさせられるように現れる月のように
一つの可能性が目の前に浮かんできた
――好きなのは僕の方だけなのかもしれない
その瞬間に初めて好きになったよ
世界のすべてが君を置いていこうとも
地球の自転に見放されて
宇宙の果てに放り出されたとしても
僕はここで君の瞳から目を切らずに待っているよ
今 二人を結ぶリボンがほどけようとしている
とても臆病になって こんな言葉を綴っている
この想いを君に届けて 固く結い直したい
何度でも
リボン
どうしてか とういう思考に先駆けて
照れくさい 感情を覚えた
それは僕のプレゼントの装いの
リボンだとすぐにわかったから
だって 些末なことさえ
一生懸命 選んだんだもの
君が持っていてくれている
そういうことはつまり
僕のプレゼントはイヤじゃなかったんだね
一安心
装いまで取っておいてくれるということは
プレゼントを贈るという僕の決断も
間違ってはいなかったんだろう
より一層の 一安心
ただね どうしてだろうか
君はそのリボンを
君のその華奢な首に巻いている
いつもと同じ 病気の人の ベッドの上でね
私があなたへのプレゼントよ
なのかもしれないし
私の首はあなたが絞めているの
かもしれない
ほかにもいくつか
君との関係の可能性について
無い頭で可能性を広げてみたわけですが
しかしそんな解釈以上に大事なことは
こんな夢を見てしまうほどに
「やれやれ」だなんてあきれるほどの
寝ても君 覚めても君の
君を想う僕がいるゲンジツなんです
孤独のサーカス
今日もどこかで
花火大会
だって花火の
音がするもの
私のサーカス
間に合うかしら
めしべのとこから
飛び出しちゃうの
落ちる花びら
ひらひら
しとしと
きっと誰かを
包み込む
そんなこと
できやしないよ
それでもサーカス
出てもいいかな
めしべのあたり
黄色の火薬
あけておいてよ
赤の火薬も
白の火薬も
きっと遠くの
誰かのたましい
寂しくないから、ここまで来たよ
寄り添うように、寄り添うように
光って、はじけて、消えていく
今日もどこかで、花火大会
ひらひら、しとしと
きっと誰かを、包み込む
そんなこと、できやしないよ…
それでも下には
浴衣にちょうちん
きっと遠くの
誰かのたましい
寂しくないから
ここまで来たよ