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たましい



ベランダに出ると
ノソノソと歩くゴキブリがいた
部屋の灯りが影を塗り
それはひとひらの落ち葉のように
大きな姿を造っていた

死んだじいさんは
よく倒したゴキブリを
火で炙っては棄てていた
油虫と云うくらいだからよく燃える
何遍それを説いただろう

鼾もないから身体もない
返事もないからこころもない
それでも尚こうしてやって来る
このじいさんのこれに
やれ如何なる言葉を充てようか

教えに倣って煙草の火を挿そうか
それもよそう
じいさんを乗せてきてくれたのだろう
命を尊ぶ事くらいしか
自分は優しさを持ち合わせていないのだし

ゴキブリは返した踵で影を払うと
風も待たずにノソノソとかえっていった


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すがり、いのり、しゃにむに



僕はどこにいるのだろう

夜 一人の部屋
だってそうだろう
あきれた声が聞こえる
ここにいるじゃないか

それでも僕は
しゃにむに指を動かす
インターネットの中に僕を探す
見つからない 今日もどこにもいなかった

気が付けば目には涙が浮かんでる

旅は永遠、別れは一時


君は、そうだったのか
足を止めて、目に涙をためたのか
僕と笑った帰り道
その時の風かおる

君は、そうだったのか
涙をこぼして、歩くのをやめたのか
君が迷った帰り道
その時から、風はかおるばかりだ

煙のように消えてしまったその音があったから
旅の道しるべにも足跡にもなっていたというのに

懐かしい記憶がやってくる
今一度、その時を静かに生きたいがため
風に身を任せ目を閉じる
そのまま、そのまま…

僕らはいつも笑って過ごした
これからも君はずっと笑うことになっていた
笑った君となら何度でも対話ができるはずだった
泣いた君とはついに対話ができなかった

絶対に出来ないことがある
依然として受け容れることは困難だけど
そんなことがこの世にあると
完全な不意打ちで突きつけられた

風はかおるばかりのままだ
手を引いてくれないし
背中を押してもくれやしないけど
ここで待つわけにもいかないだろう

僕らは笑って過ごした
その時間は確かに在ったが
今はそれしかないのが悔しい
僕はこうしてやっと泣いている

泣いた二人で会えるように
僕の書いたうたがあるよ

なびく旗に 風かおる


しかられて(仮)



今日の僕は
なんにもなかった
だから僕は
からっぽのままだった

たばこをふかしに屋上へ
いつもより遠くの街灯が
はかなく小さく
ジオラマのように感じられた

誰も押してくれなかった背中は
誰も押してはくれないままで
ただやすらかに
トンととぶことができた

おどろくべき速度で落下して
心臓はまだ屋上に置いてけぼりのようだった
それでも体は宙に浮いて留まった
確認したところ僕には翼ははえていない

約束の日に
君に伝えたい気持ちがさだまった


月で曲が書ける時




僕はそっと煙草を吹かしに窓の外
君は黙って付いて来て
三月最後の月の灯りで
髪を洗う横顔が画になった

ああ
なにごともなき

明日も一日
何事もなき

僕は注意深く
目に見えない程小さく笑った

そして捧ぐは
視界の闇に負けない程の深い深い祈り

その訳は
深い闇に呑まれてしまったからだろう

この祈りは
ただ深い
何にという訳でない
ひとつの祈りはただ深い


詩人と子供は月をピカピカと云うだろう




月はピカピカしていた

それはいつだっただろう
彼の周りにいた人は
彼が本気でそう言うものだから
魂を削ってピカピカだと説くものだから
その時確かに
月はピカピカしていた

君はきっと
初めて満月を見た時だった
月はピカピカしていた

今宵の君はきっと
忘れてしまっていたり
感じる事ができなくなってしまっている
月はピカピカしていた

多くの大人は
また現代を必死に生き延びる人らは
月はピカピカしていた
そんなことを口にする人を
ちゃんちゃら可笑しいだとか
やれ拙いだとか
なんだよ電球じゃあるまいし
なんて顔して莫迦にする

それはきっと
恒星がなんだとか
それは反射光に過ぎないのだ
などと宣った莫迦が
大昔にいたからだろう

月が夜空を照らすあかりたれないのならば
君の泪は何によって乾かされようか
月が夜空を照らすあかりたれないのならば
もはや科学なんて
優しい真面目君が癒してくれるだけの老賢者

文字も観念もない
因果関係をも手放したその体で
暗い一人を生きた時
君の眼には確かに
月はピカピカしていた


その物語に救いがあるということ




真っ白なノートを開いたとき
まっしろだ!
そう思ったよ
そう思って、固まってしまったんだ

真っ白なノートを開いたとき
まっしろだ!
そう思って、僕の好きなふうに描いたんだ
それを思い出した


もうだめだ
それができなくなってしまった
僕の絵は、ノートの白を汚すだけ
取り返しのつかないノートを作るだけ

それだから
郵便受けの、ゴミ同然を
人目気にして持ち帰り
申し訳程度 描き殴る

すっかり怖くなってしまったな、とか
今までごめんなさい、とか
そんなことを
繰り返し 呟いて


いつしか僕は
ゴミ置き場に足繁く通ったり
そんなぼろを求めて
お金を出すようになっていた

好きに描ける
好きに描ける!
心が躍るんだ

あれ
ずいぶん手が汚いな
ああ、そうだよな
いつか綺麗に落ちる汚れかな

やがて僕の手は
ぼろを汚す黒になっていたよ


夜の海は それは暗くて
隠した手 すすぐのに 丁度よかった

どこまで海だかわからなかった
どこまで汚れかわからなかった
だから
波を感じて 一歩一歩
顔まで浸かってみたんだよ

じゃぶじゃぶじゃぶ
じゃぶじゃぶじゃぶ
ふと気が付いて 手が止まる
誰かが隣にやってきた

こんばんは
からだをあらいに うみまできたというのに
あなたのせいで うみが まっくろじゃない
どうしてくれるの?

僕のせいじゃないよ
夜だから海が真っ黒に見えるんだ
海は綺麗だよ わかるかい?
いくら僕が汚れていても それは揺るがない

あら そうかしら
わたしには きらきらと かがやいてみえるわ
それはそうとね わたしがいいたいのは
あなたがわたしに どうしてくれるの っていうこと

これ以上汚さないように
海から出て行ってやりたいが
あいにく僕の身体は汚れすぎていて
君の側を通るのもなんなんだ

かわりに近くの川を教えるから
そっちに行ってはくれないか

どうして そんな めんどうを
わたしがこうむらないと いけないのかしら

わかったよ、僕が海から出て行くよ
ただし僕はうんと醜いんだ
僕の足音が聞こえなくなるまで
目を閉じていてほしい

だきしめて

だきしめて?

その きれいな てで
わたしを だいて
なでて
わたしを きれいに してほしいの

何を言っているんだ?
僕の手はな、

もう いいから

そのまま、だきしめて

そう
ありがとう
わたしのほうが うんとよごれているの
むかし すきなひとが いてね
そのせいなの
でも
もう きれいになったわ
あなたもよごれていたみたいだけど
すっかりきれいになったわね
こんな うみ
はやくでましょう

僕は彼女に手を引かれ
ジャラジャラ浜辺を踏みしめた

波打ち際では無数の蚯蚓が海に染み出た僕の黒を貪り生き生きと乱舞していた